今回お話するのは
5chの恐怖体験談
風呂場の女
です。
このお話を書いた人はどうなったのか?
気になるお話です。
【恐怖体験談】風呂場の女
母と娘が旅行に出掛けた。
娘はもうすぐ嫁ぐ身であり、最後の親子水入らずだった。
ありきたりの温泉宿で、特徴は海に面している、というくらい。
部屋に通されると手持ち無沙汰になった。
駅から続く温泉街の土産物屋はだいたい覗いて来たし、夕食までにはまだ時間があった。
そこで二人はお風呂に行く事にした。
「この先の廊下を行くとあります。今でしたら丁度、夕日が綺麗ですよ」
女中さんはそう言って、忙しそうに戻って行った。
言われた通りに進むと、一本の長い廊下に出た。
左右にはバーや土産物屋が並んでいる。
そこを通り過ぎて行くと、廊下は右に曲がっていた。
その正面には『男湯』『女湯』の暖簾が。
中から音は聞こえない。
ふたりで満喫できそうだ。
支度を済ませ浴場に入ってみると、案の定誰もいない。
「うわー、素敵ねぇ」
娘は感嘆の声を挙げた。
正面は全面開口の窓、窓に沿って長方形の湯船。
その窓の外には夕日に光る一面の海。
二人は早速、湯船につかった。
ふと娘は、湯船の右奥が小さく仕切られているのに気付いた。
1メートル四方程の小さなもの。
手を入れてみると、飛び上がるほどの熱い湯だった。
「きっと足し湯用なのね」
母の言葉に娘は納得した。
湯加減、見晴らし、なにより二人きりの解放感。
二人は大満足で風呂を堪能した。
窓と浴槽の境目には、ちょうど肘を掛けられるくらいの幅がある。
母は右に、娘は左に、二人並んでたわいもない話をしていた。
ゆっくりと優しい時間が過ぎて行く。
その時、母は突然悪寒を感じた。
自分の右の方から、冷たいモノが流れて来るのを感じたのだ。
普通ではない。なぜかそう直感した。
あの熱い湯船の方から、冷たい水が流れてくるなんてありえない。
それに視線の端に、何かがチラついている気がしてならないのだ。
急に恐怖感が涌いて来た。
それとなく娘の方を見てみる。
瞬間、母は血の気が引く思いがした。
娘の表情。これまでに見た事のない表情。
しかも視線は自分の右隣を見ている。
口はなにかを言おうとパクパク動いてるが、声にならない。
母は意を決して振り返って見た。
確かに誰もいなかったはずだ。
また、後から誰かが入って来たはずもないのだ。
が、自分の右隣には見知らぬ女がいた。
しかも、自分達と同じ姿勢で、肘をついて外を見ている。
長い髪が邪魔して、表情まではわからない。
しかし、なにか鼻歌のようなものを呟きながら外を見ている。
「おか、あさん、その人…」
娘はようやく声を絞り出した。
「ダメ!」
母は自分にも言い聞かすように声をあげた。
母の声に娘はハッとして、口を押さえた。
そう、別の客かも知れない。
そうだとしたら失礼な事だ。
しかし、誰かが入って来たなら気付くはず。
ましてや、自分達のすぐ近くに来たなら尚更だ。
やはりおかしい。
そう思って娘がもう一度母の方を見ると、さっきの女はいなくなっていた。
しかし母に視線を合わすと、母は洗い場の方を指差していた。
そこには、出入口に一番近い所で、勢いよく水をかぶるあの女がいた。
何杯も、何杯も、何杯も、水をかぶっている。
娘は鳥肌が立った。
正に鬼気迫る光景だった。
母の顔色も真っ青になっている。
「もう出ようよ」小さな声で母に呟いた。
「けど、もしあれなら、失礼になるんじゃ」
母も気が動転しているようだった。
「それに」母が続ける。
「私、あの人の後ろ恐くて通れない」
そう言う母は恐怖からなのか、少し笑みを浮かべていた。
母のその一言で、娘は気を失いそうになった。
自分も同じだ。
恐くて通れない。
「じゃ、どうするの?助け呼ぶ?」
「だから、普通のお客さんだったら…」
そう答える母にもわかっていた。
あの女は異常だ。
第一あれだけ勢い良く水をかぶってるのに、水の音が聞こえてこない。
「こわいよ、どーするの、ねぇお母さん」
娘は半泣きになっていた。
「とりあえず、ここで知らんぷりしときましょ」
母はそう言い、また外を見た。
不思議だ。
さっきは水の音なんて何一つ聞こえなかったのに、背後からはザバーッザバーッと聞こえてくる。
二人はただただ、身を強ばらせるばかりだった。
その時。突然水をかぶる音が止んだ。
止んだ瞬間に、娘は震えながら母を見た。
娘は泣いていた。
しかしお互いに顔を見合わせるばかりで、振り返る勇気がない。
そのまましばらく時間が過ぎた。
「出て行ったみたい」
母は娘の方に視線をうつした。
娘は静かに下を向いていた。
ただたまに、しゃくりあげるのが聞こえる。
「ほら、もう大丈夫だから、ね、もう出よう」
母の優しい声に諭され、娘はゆっくり顔を上げた。
よかった、心の底からそう思い母の方を見た。
母の後ろ。
熱い湯の入った小さな湯船。
そこにいた。
髪の長いあの女。
熱くて入れるはずのない湯船の中に。
湯船一杯に自分の髪を浮かべて。
顔を鼻から上だけ出して。
娘を見て、ただじーっと見つめて。
そしてニヤリと笑った。
「ギャー!」
娘は絶叫して母にすがりついた。
母は娘が何を見てしまったのか知りたくなかった。
寄り添う娘の肌は冷えきってしまっている。
「出よう、おかしいもの。歩けるでしょ」
そう言いながら娘を立たせた。
早く、早く。
もどかしくなる。
水の中がこんなに歩き辛いなんて。
それでもなんとか湯船をまたいで洗い場に出た。
娘は顔を覆ったままだから足元もおぼつかない。
出てしまえばもう大丈夫、突然、安堵の気持ちが涌いて来た。
そして、母は最後に湯船を返り見てしまった。
そこにはあの女が立っていた。
長い髪から水をポタポタ垂らしていた。
下を向いたまま立っていた。
窓スレスレのところに立っていた。
ここで母はまた背筋を寒くする。
立てるはずなんてない。
窓と湯船の境には、肘をつくのがやっとのスペースしか無いのだから。
浮いている?
そう言えば女の体は微かに揺れている気がする。
湯煙でよくわからない。
恐怖が限界に達し、母も叫び声を挙げてしまった。
二人は駆け出した。
体なんか拭いてられない。
急いで浴衣を身に付けると、自分の持ち物もそのままに廊下に飛び出し、一番手前にあった寿司バーに駆け込んだ。
「なんかいる!なんかいるよ、お風呂に!」
娘は大声で板前に叫んだ。
最初は怪訝そうな顔で二人の話を聞いていた板前の男も、次第に顔が青冷めていった。
「その話、本当なんですよね」
「こんな嘘付いたとこでどうにもなんないでしょ!」
娘はバカにされた様な気がして、思わず怒鳴りつけてしまった。
そして母も続けた。
「私も確かに見てしまいました。本当です」
母のその一言を聞いた板前は、どこかに電話を掛けた。
しばらくすると、ここの女将らしき女性がやって来た。
少し落ち着きを取り戻した母子は、以前に何か不穏な出来事があったのだろうと直感した。
女将は軽く挨拶をすると、ゆっくり話しはじめた。
5年程前、一人の女がこの旅館にやって来た。
髪の長い女だった。
なんでも、ここで働きたいという。
女将は深刻な人手不足からか、すぐに承諾した。
しかし、女には一つだけ難点があった。
左目から頬にかけて、ひどい痣があったのだ。
「失礼だが接客はして貰えない。それでも良い?」
女将は聞く。
「構いません」
女はそう答えて、この旅館の従業員となった。
女はよく働いた。
それに、顔の印象からは想像出来ない明るい性格であった。
ある時、女将は女に痣の事を聞いてみた。
嫌がるかと思ったが、女はハキハキと教えてくれた。
ここに来る前に交際していた男が大酒飲みだった事。
その男が悪い仲間と付き合っていた事。
ひどい暴力を振るわれていた事。
「その時に付けられた痣なんです」
女は明るく答えてくれた。
「そんな生活が嫌になって、逃げて来たんです」
そう言う女の顔は、痣さえなければかなりの美人だったらしい。
それからしばらくして、この旅館に三人のお供を引き連れた男がやって来た。
そして、ある従業員に写真を突き付けた。
「こいつを探している」
あの女だった。
もちろん「知らない」と答えて追い返した。
しかし、ここは小さな温泉街。きっとわかってしまうに違いない。
そう考えた女将は、方々に手を尽くして女を守った。
しかし女は恐怖で精神が参ってしまった。
あんなに明るかったのに、ほとんど口を聞こうとしない。
女将は心配したが、女は大丈夫と言うばかり。
ある日、定時になっても女が出勤して来ない。
電話にも出ないし、部屋にもいない。
結局どうにもならないので、無断欠勤という事にしてしまった。
ところが。
「大変。女将さん大変よ!」
何事か。従業員に連れられて向かったのは、風呂場だった。
そこに彼女はいた。
窓の外、向かって右に立つ大きな松の枝に首を吊っていた。
急いで降ろしてやったが、すでに死んでいた。
悲しい事に、おそらく女は死ぬ前に髪を洗っていたようだ。
自慢の髪だったのだろう。
まだシャンプーの匂いが漂っていた。
不吉だという事でその松は切り倒された。
髪の巻き付いた長いロープと一緒に、寺で燃やして貰ったのだという。
「彼女がぶら下がっていた場所というのが、お客さまがその『何か』をご覧になった場所だったんです」
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